精子提供を検討する際、「信頼できる友人や親族に頼んだほうが安心では?」と考える方は少なくありません。しかし実際には、知人や親族からの精子提供には特有のリスクが多く、医療機関でも原則として推奨されていません。本記事では、その理由と安全に進めるための考え方を解説します。
トラブルが生じやすい理由
臨床現場の知見でも、知人・親族ドナーをめぐるトラブルは少なくありません。典型例は次のとおりです。
- 提供者が子どもに強い関心を持ち、人間関係が複雑化:当初は「関与しない」と合意していても、出生後に感情が変わり、干渉や摩擦につながることがあります。
- 断りづらい関係による心理的圧力:親族・友人間では、依頼も辞退も難しく、双方が無理を重ねやすくなります。
- 子どもの福祉・アイデンティティへの影響:家庭内の役割や距離感が曖昧だと、子どもの自己理解や安心感に悪影響を及ぼすおそれがあります。
医療機関の方針──なぜ知人・親族提供は避けるのか
日本で精子提供を行う医療機関の一つ「はらメディカルクリニック」は、知人や親族からの提供を原則受け付けていません。背景には、子どもと家族を守るためにドナーとの適切な距離を保つという考え方があります。海外でも、匿名性や情報開示の厳格なプロセスが整えられている国が多く、将来的なトラブルを未然に防ぐ仕組みが一般化しています。
基礎知識の整理には、当サイトの関連記事「不妊の約半分は男性要因──精液検査の見方・改善の考え方・提供精子を使う判断軸」も役立ちます。
知人・親族に依頼する前のチェックポイント
- 境界線を文書で明確化:関与範囲(面会可否・金銭負担・情報開示)を事前に書面で取り決めても、現実には感情変化で維持が難しいケースがあります。
- 第三者の同席・記録化:合意形成には第三者(医療・法律の専門家)を交え、記録を残すこと。ただし法的拘束力や将来の実効性には限界があります。
- 将来の生活圏:提供後の偶発的接触(学校・親族行事など)を避けられるか。現実的に距離を保てないなら依頼を再考すべきです。
- 子どもの視点を最優先:大人の都合より、子どもの安定した養育環境とプライバシー保護を中心に設計できているか。
匿名ドナー制度を前提に考える
匿名ドナーを前提とする仕組みは、家庭の安定と子どもの福祉を守るために設計されています。必要時の情報開示も、第三者機関や医療機関を通じた厳格な手続きのもとで行われます。私自身も匿名ドナーとして、提供後は子どもと会わない(成人後に本人が希望する場合を除く)方針を徹底しています。
まとめ
身近な人に頼む精子提供は一見安心に見えても、実際には人間関係・心理・法的側面で大きなリスクを抱えます。
将来のトラブルを避け、子どもの健全な成長を第一に考えるなら、匿名提供と適切な制度設計を前提に検討することをおすすめします。
全国対応ですが、東京都からのご相談が最も多いです
当サイトは全国から精子提供に関するご相談をいただいていますが、特に東京都や首都圏からのご依頼が多いのが現状です。もちろん地域を問わず全国対応しておりますので、地方にお住まいの方も安心してご利用ください。